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頁作る気力がないのでとりあえずこっちに置いておきますなテキスト。
ワンパタ両片想いで桃リョ。
たたんでおきます。
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「はい、これでファンタ2本ね」
「くっ…!」
無情に宣告した越前の声に桃城は肩を震わせた。
地面にがっくりと両手を付きつつ、テニスバッグの底にある自分の財布に思いを馳せる。
―ああ、今月あといくら残ってるっけ?
「ごちそーさまっす」
「くっそ、明日こそリベンジするかんな」
最後の500円玉を投入して手に入れた炭酸をごくごくと飲み干す越前を睨みながら
桃城は拳を握って宣言したが、
「そんなこと言って明日も負けたらどうすんスか、今月ピンチでしょ」
容赦ない、かつ的確な指摘にその拳からも力が抜けた。
たしかに今月はピンチだ。
明日負けたら向こう一週間の放課後は飲まず食わずで生きなければならない。
(いやいや!)
一瞬マイナスに陥った思考を一蹴する
「明日俺が勝てば問題ねーな、問題ねーよ」
リベンジも果たせるし、財布も守られる。勝てばいいのだ、勝てば。
ブロックに腰掛けた越前は強気に出た桃城を炭酸の缶に口をつけたまま見上げ、
先ほどよりさらに無情な指摘を呟いた。
「まあ明日桃先輩が勝っても、今日の分で一本奢ってもらいますけど」
「……」
そうだった。
今日奢るのは一本までにまけてもらっていたという事実を思い出し
(つまり明日には必ずまたファンタを買わねばならない)
ふたたびがっくりと肩を落として桃城は遠く空を見つめた。
グッバイ、俺のコロッケパン。来月までお前とは会えないみたいだ。
たなびく雲に惣菜パンとの別れを呟く先輩の心中を知ってか知らずか、
越前は急に手にした缶を桃城へと差し出してきた。
「一口飲んでもいいっすよ」
「…おー」
座り込みながら半分ほどに減ったそれに口をつける。
傾けて一口飲むと、水分と甘みとが身体に染み渡った。
「甘いよなー」
「ファンタなんだから甘いでしょ」
「運動後に飲むのに、甘すぎないか?」
ちゃぷちゃぷと缶をふりながら何気なく続ける。
「あんまり飲みすぎると溶けちまうぞ」
「何スかそれ」
「ほら、甘いもん食うと歯が溶けて虫歯になるっつーじゃん」
ファンタの飲みすぎでお前も溶けるかもしれないぞ。
越前の飲む量から考えると説得力がある気がして桃城は笑ったが
当の越前は呆れたように肩をすくめただけだった。
「べつに…溶けるならそれでいいっスけど」
「溶けたら困るだろうが」
「誰が」
「誰がって、」
俺が。
そう続けそうになって、あわてて言葉を飲み込んだ。
いやいやいや別にオレ困らないだろ、いや困らないわけじゃないけど、
もっと困る人いるよな、親父さんとかおふくろさんとか
ほら従姉妹のきれーなお姉さんもいたよな、
それにテニス部がこまるだろ、越前がいなくちゃな。
ああ、俺はテニス部だから俺が困るってのは間違いじゃないが、
でもなんか違うだろ、「俺が」困るってのは。
試合以外でフル回転させることが滅多にない思考回路をめいっぱい使って
そこまで考えが及んだところで、冷静な追求がとんできた。
「誰が困るんスか」
「だからそれは、つか、誰がとかって問題じゃねえだろ。お前が困るだろうが。溶けたくないだろ?」
なんとか追求の矛先を交わし、まっとうと思われるつっこみを返す。
「別に溶けたくはないけど、もし溶けたとしたも「俺」は困んないでしょ、消えちゃうんだから」
なら、誰が困んの。
重ねて聞かれ、戸惑う。
「なんだよ。誰って、…みんな困るだろ、家族とか、テニス部みんなとか…」
当然の答えを返しているのに歯切れの悪くなる桃城を見て、
越前は軽く眉を寄せた。
「ふーん」
ふい、と視線をそらし、先ほどまで桃城が見ていた空の方をみやる。
そのまま言葉を切ったその唇がわずかに尖っているのを見て、
一体何が気に入らなかったんだ と思いながら
無言の越前の手に桃城は甘いジュースの缶を押し付けた。
「ほら、残り飲め」
「…飲みますよ、俺のっスから」
振り向きもせずに缶を掴み、眉を寄せたまま口元へと運ぶ。
(…なに、機嫌悪くなってんだ)
この後輩が不機嫌なのは珍しくないが、
なんとなくいつものように茶化すことができず
だまってその横顔を見つめた。
口には出さず、先ほどの問いの答えを反芻する。
「誰が」困んの。
なんだよ、みんな困るだろ。
お前が消えたら、困るだろ。
家族もテニス部も、俺、も。
“消えちゃうんだから”
ありえない仮定の話なのに、その響きにドキリとした。
お前が溶けて、消えてしまったら困る。
多分、俺がいちばん困る。
最初に言いかけた言葉は、何も考えずにこぼれた分、本当のことだ。
そして多分、そのまま答えていれば
この後輩はこんなつまらなそうな顔をすることはなかったんじゃないかと思う。
けど、何で困るのかなんて聞かれたら困るからいえない。
毎朝自転車の後ろに乗せる重みがなくなって、
無遠慮にとばされる生意気な言葉が消えて、
苦しい月末に買わされたジュースを飲む相手がいなくなって、
何でいちばん困るのかなんて自分でも説明できないのだから。
(…あー…)
黙って考える、などと似合わないことをしたせいで
動いてもいないのに疲れた気がする。
「ッし!!」
唐突な掛け声とともに桃城は思いっきりのびをして、
それから地面に置かれていたラケットを掴み、勢いよく立ち上がった。
「ほら越前早く飲め。飲み終わったらもう一勝負すっぞ!」
「はあ?」
急の提案に越前はさらに眉をひそめる。
その冷たい声も横目で睨む視線も一切気にせず桃城は続けた。
「負けたらファンタでも何でもまた奢ってやる、けどお前が負けたらお前の奢り、
つーか明日のファンタは帳消しな!」
「…せこいっス」
「せこくねーよ、それとももう疲れたか?」
「冗談」
言葉遊びの延長でしかない挑発にも鋭く反応する。
飲み干したファンタを音高くアスファルトに置き、立ち上がる。
左脇のラケットを握り今度こそまっすぐ自分の方をみた越前に、
自然と笑みが浮かんだ。
「わりーけど、次は勝つぞ」
勝てばいいのだ。
そうすれば越前に奢ったりしなくていいし、
大事な財布もこれ以上ダメージを受けずにすむし、
ファンタを飲みすぎない越前は溶けてしまうこともないから、
越前が消えて困る理由なんて考えなくていい。
「桃先輩、来週いっぱい買い食いナシになるっスよ」
「そう言ってお前が負けたらどーすんだ」
「すぐリベンジ、で、勝つ。…もともと負けませんけど」
さっきまでの低温のテンションは消え、
不敵に笑う瞳には勝負の前の興奮の熱が宿っている。
そう、勝てばいい。
そうすればお前はまた俺を打ち負かすのに夢中になって
不機嫌なんかも吹っ飛んで、
俺とテニスするために、溶けてる暇なんてなくなるだろ。
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前うっかり桃が大学生くらいになってからくっつく桃リョを書いてしまったので、そうすると中学時代は両片想いか…?と思って書きましたが別に整合性とか一貫性とかはないという。
個人的に桃リョは忍岳と両片想いの自覚のベクトルが逆なので(気づいてるけど言わないのが侑士とリョマ、無意識に避けているのが岳人や桃)、受っこ視点で書いたよーなことを攻側で書く不思議です。